彼らの瞳のプリズムは海の色を七色にした

おきゃん
写真 野寺夕子

 やまなみ工房の玄関に飾ってある「水族館」という題の絵、ヒデアキに手を引かれ見に行った。
「これ、あんたが描いたん?」
ヒデアキはにこにこしてうなずいた。
「うまいやん」
画面一杯に赤や青や黄色、自由な色で魚達が泳いでいる。
 やまなみ工房が社会福祉法人として認められた祝賀会でライブをして、その打ち上げの席でビールを御馳走になり、上機嫌で酔っ払っている私の相手をヒデアキはおなじく飲ん兵衛のおやじと一緒にしてくれていた。おやじの言うことには、ヒデアキは半年間毎日この絵を描くために、この「やまなみ工房」へ通ったという。
 「あんたには、魚がこんな風に見えるん?」
しばらくヒデアキの作品を眺めてから聞いてみた。ヒデアキは相変わらずにこにこしていた。ヒデアキは知的障害者である。私の質問への答えは意味不明の言葉で発せられた暖かいサウンドだった。
 (なんて言ってるんだろうな....。)
 「ヒデアキ、ピカソのキュービズムの天然版やね。スゴイスゴイ、人間は目に見えてるものだけが全てやないんよね。色んな見え方があってええんよ。ヒデアキは既成概念の中で生活してないからこんな絵が描けるんやね。ヒデアキの目はプリズムみたいになってんのやね。うらやましいくらいすごいことなんよ。」
「イェー!!」
ヒデアキはこの「イェー」が褒め言葉の中で一番気に入ったようだ。
 難しい言葉でのコミュニケーションはほとんど出来ないけど、その分一言一言が意味が深いし、「あー」とか「うー」でも心を伝える事が出来るようだ。
「イェー!!」と親指を立てただけで、あたしがヒデアキの絵が気に入っているというのがとりあえずは伝わったようだ。
 やまなみ工房の壁には「イェー!」というような絵がたくさんかかっている。不思議な形や表情をした人形の焼き物もある。
 あたしは自分の歌を沢山の人に聞いて欲しいと思っている。それと同じようにヒデアキ達の絵を沢山の人にみてもらいたいと思った。同じアーティストとして心が触れ合った気がしたから....。

 3回目か・・・ただ、作品に囲まれて歌ってみたいな・・・って思っただけなんだけど

つらいな・・・って思ったとき、私はヒデアキの絵や菜穂子ちゃん地蔵を思い出すことにしている。....彼は6ケ月かけて絵を描いた、彼女は毎日粘土で人形を作っている、彼らと言葉を交わしたり、触れ合ったりすることはないけれど、彼らの作品は一人歩きして私を励ましてくれる。....私の作った歌はそんな風に人を励ますことがあるのかな・・・
そう思うと、彼らのすごさに改めて気づく。実際、彼らをマテリアルに写真を撮る人にも会ったし、本を書く人にも会った。作品をお店に飾ってくれるブティックのオーナーもいる。・・・続けていくことにはきっと意味があるのだな・・・。
 
 




場所を提供して下さるMDカフェ、出演してくださるミュージシャンの方々、ご協力いただいている皆様、そしてもちろんやまなみ工房、たんぽぽの家の皆様、感謝します。
優しい風が吹きますように・・・。


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